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再生二期作とは?温暖化と価格高騰が後押しするコメ増産の新戦略【2025年最新版】

目次

再生二期作が再注目される理由──温暖化とコメ価格の二重ショック

わずか1年で実施面積が倍増

一度収穫を終えた稲株から再び穂を実らせる「再生二期作」。この技術が、2025年に入り急速に広がりを見せています。2024年には約30ヘクタールだった実施面積が、わずか1年で60ヘクタール超に倍増する見込みとなっており、増加ペースとしては近年の水稲栽培では異例の動きといえるでしょう。

従来は九州南部などごく一部の温暖地に限られていたこの作型ですが、現在は関東以西の地域へも拡大。再生二期作の裾野が確実に広がっていることがうかがえます。農業技術の進化だけでなく、周囲を取り巻く環境の変化が、この流れを後押ししているようです。

高温化が生んだ“2回目のチャンス”

2025年6月の平均気温は、平年と比べて2.34度も高く、1898年の観測開始以来、最も暑い6月となりました。このような気温上昇は、稲の生育期間をこれまでより長く確保できる環境をつくり出します。

これまで「気温が足りない」とされてきた地域でも、一期作後の株が再び分げつし、実をつける可能性が現実味を帯びてきました。温暖化というとマイナスの側面ばかりが語られがちですが、このように作型の見直しによって新たな農業機会を生み出す動きも見られます。気象条件の変化が、結果として再生二期作の可能性を広げているのです。

コメ価格の高止まりが背中を押す

2025年6月の最終週、全国の平均的な店頭価格(5キログラムあたり)は3920円。前年と比べて約1.6倍の高値圏にあります。価格は政府の備蓄米放出により一時的に下がる局面もありましたが、全体としては依然として高止まりが続いています。

こうした価格環境は、「同じ水田で年に2度収穫できれば、単位面積あたりの収益性を高められる」と考える農家にとって強力なインセンティブとなります。実際、二期作に積極的なJAや農業法人からは、価格動向が作付意欲に直接影響しているという声も聞かれます。価格シグナルと技術的な実現性、その両輪が再生二期作の普及に働いていることがうかがえます。

減反政策の時代から見た転換点

1970年に導入された減反政策は、コメの作付面積を制限し、市場の需給バランスを調整する目的がありました。この政策により、それまで1400万トン台だった国内の生産量は、2024年時点でおよそ700万トンと半減。あわせて、二期作も長く姿を消していました。

しかし今、コメの供給不安と価格上昇という二つの要因が重なったことで、50年ぶりに二期作への注目が戻ってきています。「減反前以来の関心」と評されるような盛り上がりを見せており、農業の現場でも「もう一度、可能性を探ってみよう」とする動きが顕在化してきました。研究開発の再始動も含めて、かつての制約を乗り越えようとする転機が訪れているといえます。

政策的な支援が後押しに

政府もこの動きを後押ししつつあります。最新の「食料・農業・農村基本計画」では、再生二期作を含む複収穫型の作型を支援対象として明記。2025年度からの5年間は、「農業構造転換集中対策期間」と位置づけられました。

具体的には、農地の大区画化やスマート農機の導入支援に加えて、二期作の実証・普及に向けた補助や助成が強化される見通しです。現場からは「技術と制度の両方が揃えば、導入ハードルが一気に下がる」との声も聞かれ、政策と現場ニーズがようやく噛み合い始めた印象を受けます。

現場の証言──地域別モデルケースに学ぶ生産拡大のヒント

沖縄・石垣島──日本最速の収穫リズムを支える温暖地の利

石垣島では、2月上旬に田植えが始まり、6月中旬に1回目の収穫、さらに8月下旬には2回目の刈り取りが行われる計画です。国内でも特に温暖なこの地域では、年2回の栽培スケジュールが現実的に成立しており、全国に先駆けて早場米を出荷できるという優位性があります。

那覇市でコメ販売業を営む山七の山田義哲氏は「自店で販売するコメの確保が追いつかない」と語り、需要の強さが二期作導入を決定づけたと明かしています。市況の変動よりも、足元の需要に応えるという実需ベースの判断が、再生二期作の導入を後押ししている点が印象的です。

照沼農園──茨城と石垣島、2拠点展開による戦略的分散

水戸市の照沼農園は、茨城県内と石垣島の両方で再生二期作に取り組んでいます。茨城では2023年からドローンによる種まきを導入し、苗づくりや田植えの省力化を図りました。浮いた労力を、温暖な地域での早期作型に転用することで、効率化と収益機会の最大化を目指す動きです。

2024年には、地面の乾燥や害虫被害などにより2回目の収量が計画を大幅に下回るなどの課題が発生しましたが、2025年は土壌条件の良い圃場を選び、二度目の潅水が確実に行えるよう準備を進めています。省力技術と地域分散を掛け合わせるアプローチは、単なる効率化にとどまらず、気候リスクや市場変動に対する柔軟な対応策ともなり得ます。

千葉・柏──早生品種「ふさこがね」で収穫時期を前倒し

千葉県柏市では、150ヘクタールの水田を耕す染谷茂氏が、早生品種「ふさこがね」を活用し、再生二期作を導入しています。対象面積は4〜5ヘクタールと限定的ながら、8月に1回目の刈り取り、11月に2回目の収穫というスケジュールで栽培が進められています。

気温の上昇により、稲の生育可能期間がこれまでよりも長く確保できるようになったことで、こうした早生品種との組み合わせが機能する環境が整ってきました。染谷氏は「収量が増えれば経営全体の採算性が改善する」と話しており、単収を上げるだけでなく、収益構造の最適化に向けた一手として取り組みが進められています。

JA北つくば──官学産連携による技術普及と流通強化

茨城県筑西市を中心とするJA北つくば管内では、再生二期作の取り組みが活発化しています。2025年の実施面積は前年比で2倍規模に拡大する見込みで、大学や企業との連携も本格化。東京大学・明治大学の研究チームが栽培指導を担い、コメ卸企業と連携して流通面の整備も同時に進められています。

「米価が高いうちに取り組みを定着させたい」という現場の声も多く、単独農家だけでなく、地域全体での普及モデルとして機能しつつあります。公的研究機関・民間企業・農業団体が三位一体で支援体制を構築するこの動きは、他地域にも展開可能なひとつの成功例といえるかもしれません。

ドローン播種と再生二期作──省力化が拡大の鍵に

再生二期作の定着には、省力化技術の導入が不可欠です。ドローンを活用した種まきは、育苗や田植えといった作業を省略できることから、労働時間と人員の大幅な削減につながります。例えば、3機のドローンを運用することで、従来5人かかっていた作業を2人で完結させる事例も出てきています。

一方で、ドローンによる直播きには鳥害リスクが伴い、種もみのコーティングなどでの対応が求められています。完全な防除は難しいものの、技術開発や資材改良が進めば、こうした課題も徐々に克服される可能性があります。再生二期作の拡大に向けては、省力化と被害軽減の両立を図る取り組みが今後ますます重要になっていくでしょう。

技術・経営課題と打開策──品質安定と担い手確保のロードマップ

収量と品質のばらつきが示す“まだ伸びる余地”

再生二期作は、理論上は効率的な作型でありながら、現場では収量や品質にばらつきが出やすいのが実情です。現在、農業・食品産業技術総合研究機構などが全国で実証を進めており、国内では60ヘクタール超の規模が確認されています。一方、海外では中国が先行して研究を蓄積しており、日本の取り組みはまだ発展途上といえる段階です。

今後は、地域ごとの土壌条件や気候特性に応じた管理手法の最適化が求められます。たとえば、刈り取り後の株に必要な栄養供給や登熟期間の調整など、品種選定を含む複合的なアプローチが重要です。再生二期作は“誰でも、どこでも成功する”とは限りませんが、だからこそ技術開発の余地が大きく残されている分野とも言えるでしょう。

潅水トラブルを防ぐには“土”との対話が必要

再生二期作における特徴的な工程のひとつが、1回目の収穫後にいったん水を抜き、その後ふたたび水を張るという潅水プロセスです。2024年の茨城県内では、この際に土壌が乾燥しすぎてひび割れを起こし、結果的に再注水が困難になった圃場も確認されました。

こうした事態を避けるためには、圃場ごとの排水性や保水性を把握し、予防的に代かきを行うなど、事前準備が肝要です。また、物理性の異なる土壌が混在する地域では、水田選定そのものを見直す判断も視野に入るかもしれません。再生二期作の成否は、“2回目の水がきちんと張れるか”という基本にかかっているといっても過言ではありません。

害虫と鳥害──技術進化と消費者ニーズの板挟み

再生二期作の拡大にあたり、忘れてはならないのが病害虫と鳥害の問題です。特に2024年には、2回目の栽培工程で害虫の大量発生が起こり、収量が想定を大幅に下回るケースが報告されました。

また、ドローンによる直播きは省力化に効果的ですが、撒かれた種が鳥に食べられる被害も発生しています。鉄コーティングなどの技術もありますが、完全な解決策とは言い切れません。加えて、減農薬志向の高まりもあり、薬剤の使用量を抑えながらも実効性のある防除体系(IPM)の確立が重要になってきます。現場では、LED照明や天敵利用といった取り組みも模索されていますが、これらの技術が普及するにはさらなる研究とコスト面の改善が求められるでしょう。

人材と投資回収ライン──持続性をどう設計するか

人手不足と高齢化は、どの産地でも共通する課題です。2024年時点でコメ農家は54万戸と、5年前から約3割減少しています。加えて、ドローンやスマート農機を導入するためには一定の初期投資が必要であり、「省力化=即導入」とはいかない現実もあります。

その一方で、再生二期作は1回の育苗・田植えで年2回の収穫が可能となるため、うまく軌道に乗せれば人手と費用の双方を抑える効果が期待できます。課題は、収量や品質が安定するまでの“導入初期フェーズ”をどう乗り越えるかです。このフェーズでは、圃場選定、補助制度の活用、指導体制の整備といったリスクマネジメントが欠かせません。

5年間で目指すべき“収益モデルの再設計”

政府は2025年度からの5年間を「農業構造転換集中対策期間」と位置づけ、再生二期作も重点的な支援対象に含める方針を打ち出しています。この期間を活用して、複収穫型の栽培体系を事業として確立できれば、単収ベースでは1.3〜1.6倍の増加も見込まれます。

たとえば、1回目には汎用品種を出荷し、2回目は輸出向けなど単価の高い品種に切り替えることで、収益ポートフォリオの多様化も可能になります。経営者視点で見れば、①初期投資と補助金のバランス、②収量の下限見積り、③価格前提のシミュレーション――この3点を織り込んだ計画立案が不可欠です。“うまくいったときだけ収益が出る”のではなく、“最悪でも損失が限定的で済む”構造をどう作るか。それが、今後の導入判断における重要な視点になってくると考えられます。

免責事項

本記事は、再生二期作に関する公開情報および実例に基づき、制度・技術・経営の各側面を整理したものです。内容はあくまで一般的な知識提供を目的としたものであり、特定の営農方針や投資判断を推奨するものではありません。

再生二期作の導入可否は、圃場条件、労働力、資金計画、販売先の確保など、地域や個別事情によって大きく異なります。具体的な導入をご検討される場合には、専門機関や行政窓口、認定農業者支援機関等からの助言を受けたうえで、最新の制度や気象条件を十分にご確認ください。

なお、本記事の記載内容については正確性の確保に努めておりますが、将来にわたる完全性や適用可能性を保証するものではありません。

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