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富裕層の海外移住が加速|Wexitと中東・ミラノ流入の実態を解説【2025年最新版】

目次

第1章|富裕層移住の新潮流と“Wexit”の勃興

世界規模で進む富裕層の移動

ここ数年、富裕層による海外移住の動きが世界的に加速している。特に2025年には、100万ドル(約1億4500万円)以上の投資可能資産を有するいわゆる「ミリオネア層」の移住者数が14万2,000人に達する見通しであり、これは過去最多の水準とされている。移住の背景には、地政学的な緊張や各国の経済政策の変化、そして富裕層にとって不確実性を高める政治・社会の構造変化があるようだ。

このような潮流の中で特に注目を集めているのが、英国からの富裕層の流出である。かつては安定した法制度や国際都市ロンドンの魅力に惹かれ、多くの富裕層が資産を置いてきた英国だが、近年では税制変更などの影響を受け、移住先を求めて国を離れる事例が増加している。

税制変更が引き金となった英国からの大規模移住

英国からの富裕層の移住が加速する一因とされているのが、「non-dom税制」の廃止である。かつて英国では、一定の条件下で海外居住者が海外で得た所得に対して課税されない制度が設けられていた。これにより、グローバルに資産を保有する富裕層にとっては英国に拠点を置くことに大きなメリットがあった。

しかし、2024年に英国政府はこの優遇制度を廃止し、海外所得に対する課税範囲を大きく拡大する方針を打ち出した。これにより、英国に滞在しながら海外で得た所得にも課税されるようになったことで、富裕層の資産管理戦略に大きな影響を与えている。

この改正の影響は数値にも表れている。2024年には9,500人の富裕層が英国から流出し、さらに2025年には1万6,500人の純流出が見込まれている。これは同年における中国の7,800人の純流出を上回る見通しとなっており、英国は世界でもっとも富裕層の流出が多い国として注目されている。

“Wexit”という現象の定着

こうした英国からの移住の動きは、メディアにおいて**“Wexit(ウェグジット)”**という造語で表現されるようになってきた。この言葉は、英国のEU離脱を指す“Brexit”に倣い、「Wealth(富)」と「Exit(脱出)」を組み合わせたものである。富裕層がロンドンを離れ、税制の有利な国々へ移住していく様子を象徴的に捉えた言葉として使われている。

実際、英国では「不動産王がモナコへ」「金融業界の元幹部がミラノへ」など、富裕層のロンドン脱出が連日のように報道されている。もはや一部の事例にとどまらず、社会的な現象として定着しつつあるといえる。

このような傾向が広がる背景には、税制以外にも英国国内の政治的な不安定さへの懸念もある。将来的に労働党政権への交代が予測されている状況において、富裕層の間ではさらなる増税への警戒感が高まっているようだ。

流出に伴う資産規模のインパクト

英国からの富裕層の流出は、その人数だけでなく、伴う資産規模の大きさからも注目されている。2025年に英国から移住すると見込まれる富裕層の総資産は、**約918億ドル(約13兆円)**と試算されている。この規模は、ひとつの国家予算にも匹敵する水準であり、英国にとっては課税ベースの喪失という面でも無視できない影響があると考えられる。

一方で、こうした資産が新たな移住先で投資や消費に回されることで、受け入れ国側の経済活性化につながる可能性もある。ただし、その具体的な影響や定量的効果については、別途慎重な分析が必要となるだろう。

中国との比較から見える構造の違い

英国に次いで注目されているのが、中国からの富裕層の流出である。2024年には1万5,200人の富裕層が海外に移住したとされており、こちらも過去最多の規模となっている。ただし、過去との比較では中国の流出ペースは若干の減速傾向にあるとみられており、この点は英国との違いとして押さえておく必要がある。

中国の場合は、政府による統制強化や景気の減速といった不安要素が移住の背景にある一方で、国内経済の発展や先進国との差の縮小によって、一部の富裕層にとっては留まるメリットも大きくなってきている可能性がある。

このように、同じ「富裕層の流出」という現象であっても、政策的要因と経済的要因が国ごとに異なって作用していることがうかがえる。

“移住”という選択肢の重み

英国からの富裕層の移住が、いかに制度的な変更によって加速されうるかを示す“Wexit”の事例は、今後他国においても参考となる可能性がある。特に、税制改正や優遇措置の見直しを検討する際には、富裕層の行動変容が経済や社会に及ぼす波及効果を十分に考慮する必要があるだろう。

また、資産規模が大きい層が一斉に流出した場合、そのインパクトは課税収入の減少にとどまらず、不動産市場や消費市場、さらには教育や医療といった都市機能全体に波及していく可能性がある。こうした点については、今後の章で別途検討していく。

第2章|流出国・流入国の実像──英国・中国・インド vs. 中東・米国・イタリア

富裕層の移動はどのように分かれているか

世界的に進む富裕層の移動において、移住元となる「流出国」と移住先となる「流入国」には明確な傾向の違いがある。2025年の見通しでは、英国から1万6,500人、中国から7,800人の純流出が見込まれており、逆にUAE(アラブ首長国連邦)には6,700人の純流入が見込まれている。

このような動きの背景には、各国の税制、経済の安定性、生活環境、さらには社会的な信頼感の差といった複数の要因が複雑に絡んでいると考えられる。特に、英国・中国・インドのような移住元の国では、内外の制度や経済情勢が移住判断に影響を与えており、一方でUAE、米国、イタリアのような移住先では、富裕層が求める条件を満たす施策が整備されつつある。

英国・中国・インド──流出国に共通する課題と差異

英国においては、non-dom制度の廃止をはじめとする税制の見直しが富裕層の移住を後押しする形となった。2024年には9,500人、2025年には1万6,500人の富裕層が流出すると見込まれており、この動きは制度改正の直接的な影響と捉える向きもあるようだ。

一方、中国では政府による統制の強化や景気の減速傾向が不安材料とされており、2024年には1万5,200人の流出が見込まれている。特に、海外への資産移転を希望する層の中には、3,000万ドルから10億ドル規模の資産を保有する個人も含まれるとされており、単なる人数の問題ではなく、その資産規模も注目されている。

これに対し、インドの動きはやや異なる様相を呈している。富裕層の流出について具体的な数値は確認されていないが、国内経済への信頼感が高まっているという見方がある。国際機関の調査では、現地事業の拡大を見込む企業が多数を占めており、将来的な成長への期待が強く、一定の富裕層は国内にとどまる姿勢を維持しているようだ。

中東・米国・イタリア──富裕層を引き寄せる受け皿の設計

対照的に、富裕層の流入が進む国々では、受け入れ体制や制度設計が移住希望者にとって魅力的なものとなっている。特に中東のUAEは、個人所得税・資産税が原則非課税であり、法人税も条件付きで限定的に適用されている。こうした制度の柔軟さに加え、金融・不動産市場への投資誘致策も整備されており、実際に2024年には6,700人の富裕層の純流入が確認されている。

また、米国においても、依然として新興国の富裕層を引きつける力は強く、制度上の不確実性が指摘される局面もあるものの、全体としては流入国としての立場を維持している。特にアジアや中東、南米の富裕層にとっては、資産保全・子弟の教育・医療制度など複数の面で安定した選択肢と映っている可能性がある。

イタリアは、他の欧州諸国とは異なるアプローチをとっており、在住者に対して海外収益の課税額に一定の上限を設ける優遇措置を導入している。この制度の詳細については公開情報に限りがあるものの、イタリアに移住した著名な資産家の存在などから、制度の実効性に一定の評価がなされている様子がうかがえる。

ミラノという都市が持つ独自の引力

イタリアの中でも、特にミラノは富裕層の間で人気を集めている都市の一つである。その理由は複数あるが、金融の中心地であることに加え、文化的・教育的な環境が整っている点が評価されている。また、イタリア国内では比較的英語が通用しやすい地域であり、国際的なコミュニケーションのしやすさも支持される要因とされている。

ミラノは証券取引所を擁し、世界的なファッション・デザインの発信地としての地位も築いており、こうした都市機能の集中が富裕層の移住先としての魅力を高めている。これに加え、行政が掲げる都市戦略や、アートイベントの開催、ビジネス環境の整備など、富裕層が求める多面的な要素がそろっていることも見逃せない。

もっとも、こうした魅力が一部の層に集中すると、地域経済への好影響とともに新たな課題を生む可能性もある。次章では、ミラノをはじめとする都市部における経済・社会的影響について詳しく見ていく予定である。

第3章|富裕層流入がもたらす都市経済への影響と今後の展望

家賃の高騰とエッセンシャルワーカーの郊外化

富裕層の移住先として人気を集める都市では、資産規模の大きな住民が増加することで、都市構造そのものに変化が生じることがある。たとえば、ミラノでは富裕層の流入により、中心部の家賃が高騰しているとされている。

こうした家賃の上昇は、エッセンシャルワーカーと呼ばれる警察官、公共交通従業員、清掃員などの生活に直接的な影響を及ぼしている。現地では、これらの労働者が生活コストの上昇により、やむなく郊外へ移住せざるを得ない状況が生まれており、都市中心部での労働力確保にも懸念が生じている。

このような現象は、住宅市場における需給バランスの変化だけでなく、インフラの整備状況や地域間の所得格差とも関係しており、都市政策としての課題とされる場合もある。

ブリティッシュスクールへの入学需要と教育リソースの逼迫

富裕層の増加は、教育機関への需要にも波及している。ミラノを含む一部地域では、英国式のカリキュラムを提供するブリティッシュスクール系のインターナショナルスクールへの入学希望者が急増しており、入学待ちの状況が続いているという。

このような教育機関への需要の高まりは、単に海外富裕層の流入によるものに限られず、将来的な大学進学やキャリア展望を見据えた教育環境への期待が背景にあると考えられている。

ただし、現時点では具体的な在籍者数や待機者数の統計は確認されておらず、制度面・供給面での課題が顕在化している可能性もある。教育リソースの逼迫は、地域社会にとって一定の緊張要因となりうる。

不動産市場の過熱リスクとバブルの兆候

都市部に富裕層が集中することで、不動産市場の過熱が生じるリスクも指摘されている。特にミラノのような国際的な金融・文化都市では、住宅価格や賃料の上昇に加え、投資目的の不動産取得も活発化している。

不動産価格が過度に上昇した場合、地価水準と実需との乖離が進み、将来的にはバブル崩壊の懸念も否定できない。さらに、過熱状態が長期化すれば、地域の商業バランスや金融機関の貸出姿勢にも影響が出る可能性がある。

これらの問題は特定の国や都市に限らず、世界中の主要都市に共通して見られる現象の一つといえる。

都市の砂漠化と生活機能の偏在化

高所得者層の集中は、都市の機能分布に偏りを生じさせる場合がある。とくに懸念されるのが、**生活物資へのアクセスが困難となる“都市の砂漠化”**である。

都市中心部で高級住宅や高級店舗ばかりが集まり、低価格帯のスーパーや商店が姿を消すと、年金生活者や高齢者の買い物環境が著しく悪化する傾向がある。都市部でも生鮮食品の入手が困難となるいわゆる「フードデザート」状態が、既に一部地域で確認されている。

たとえば、ある高級住宅街では以前存在していた個人商店が姿を消し、現在では高価格帯の店舗ばかりが立ち並んでいる。こうした変化は、富裕層の流入という現象に伴って発生する二次的な問題の一つと考えられる。

富裕層優遇税制のもたらす正負の側面

富裕層を誘致するために導入された税制優遇措置は、都市の成長エンジンとして一定の効果を持つ一方で、格差拡大や税収の減少といった副作用を伴うこともある。

たとえば、UAEやシンガポールのように法人税や所得税の負担を軽減することで金融資本を呼び込む都市は、国際的なビジネス拠点としての発展を遂げているが、その一方でマネーロンダリングへの懸念や、透明性の確保といった課題にも直面している。

また、税制が富裕層に過度に有利に設計されると、一般市民との間に経済的・心理的な隔たりが生まれやすくなり、社会的な不均衡が顕在化することもある。

このような制度設計においては、富裕層の受け入れによる経済的恩恵と、それに伴う社会的影響とのバランスを慎重に見極める必要があるといえる。

今後の都市政策と富裕層流入の持続性

富裕層の移住先としての競争は今後も継続することが予想されるが、その持続可能性を確保するためには、受け入れ側の都市においても総合的な政策が求められる。

教育インフラの整備、公共交通の強化、住宅価格の安定、税制の透明化など、各種の政策的対応が適切に機能することで、初めて都市としての魅力と競争力が保たれることになる。

また、二地域居住や観光促進策といった地方との連携も含めた取り組みを進めることで、富裕層による都市集中のリスクを分散させることも一つの方法と考えられている。

都市が経済的に豊かであることと、住民すべてにとって住みやすい環境であることとは、必ずしも一致しない場合がある。だからこそ、都市運営には多面的な視点が求められているといえるだろう。

免責事項

本記事は、提供された調査・報道資料などのインプット情報の内容に基づいて作成されています。記載内容は、特定の国・地域・制度・団体等を推奨または否定するものではありません。また、税務・法務・投資判断等を行う際は、必ず専門家にご相談のうえ、正確な法令・制度の確認をお願いいたします。記事内容は執筆時点の情報に基づくものであり、将来的な制度改正や運用変更等によって状況が変化する可能性があります。

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