ホンダと日産が手を組んだ理由とは?SDV協業で見えた新たな戦略とは
経営統合から一転、協業へ──その背景に何があったのか
2024年12月末、ホンダと日産は経営統合に向けた正式な協議を開始しました。当時は世界3位の自動車グループが誕生する可能性があるとして注目を集めましたが、両社の思惑は最後まで一致せず、統合条件で折り合いがつかずに協議は打ち切られました。
しかしその後も、24年8月から進めていたソフト技術の基礎研究は継続されており、共同開発による量産化の可能性については引き続き検討が続けられていました。この研究成果が評価され、次のステップへ進む準備が整ったことで、統合ではなく「協業」という新たな形での連携が動き出したのです。
SDVという次世代車両の主戦場で手を組む意味
今回の協業における最大の軸は、「SDV(ソフトウェア定義車両)」の分野です。SDVとは、インターネットを介してソフトウェアを更新し、車両の性能や機能を後から強化できる次世代の車を指します。
ホンダと日産は、この分野を最重要テーマとして設定し、まずは車の“頭脳”とも言える基盤ソフトの共通化から取り組む方針を固めました。さらに、低コストで効率的な生産技術である「ギガキャスト」との組み合わせにより、世界の競争で戦っていける体制を目指しています。
なぜ今、協業を選んだのか──2つの大きな理由
今回の協業決定には、次の2点が深く関係しています。
1. データを“自分たちの手で活用したい”という危機感
次世代車では、自動運転や車内サービスの高度化に欠かせない「膨大なデータ」をどう活用するかがカギになります。他社が開発したソフトを利用していると、こうしたデータの扱いに制限がかかる可能性もあることから、ホンダと日産は自社で基盤ソフトを開発し、データを自由に扱える環境を整えたいという狙いがあります。
2. 数兆円規模に及ぶ開発費の“共有化”
SDVを開発するには、非常に大きな投資が必要になります。1社で全てをまかなうには負担が大きいため、両社で分担することでコストとリスクを抑える狙いがあります。「連合を組む」ことで、資源を集中させ、時間と費用を効率よく使えるというメリットが見込まれています。
車載OSの共通化とギガキャストが生み出す次世代ものづくりの革新とは?
ホンダ×日産がめざす“使いやすい車載OS”とは
ホンダは、人型ロボット「アシモ」の開発で蓄積した制御技術を、日産は独自開発を重ねてきた車載ソフトの知見を、それぞれ基にして次世代の車載OS(※注:車全体の動作を支える基盤ソフト)を共同で構築しようとしています。
両社が目指すのは、スマートフォンのOSのように直感的で使いやすく、かつ機能ごとにカスタマイズできる柔軟な車載ソフト。つまり、利用者にとっても開発者にとっても扱いやすい「基盤づくり」を共通化するという構想です。
制御部品の共通化で広がるコスト削減の余地
今回の取り組みでは、基盤ソフトの共通化にとどまらず、そのソフトが制御する「高性能半導体」や「モーター」などの電子機器類についても、仕様の標準化を視野に入れています。
対象となる部品の種類を広げれば広げるほど、調達コストの削減や設計の効率化が進みやすくなります。そのため、共通化によって得られるコストメリットは両社にとって大きな意味を持ちます。
ソフト更新で進化し続けるクルマへ
次世代車の特徴とも言えるのが「OTA(Over-The-Air)更新」です。これは、インターネット経由で車載ソフトをアップデートすることで、販売後も走行性能や機能を拡張できる仕組みです。
例えば、自動運転の精度を改善したり、加速感を調整したり、必要に応じて機能の不具合を修正することも可能です。特定の作業をディーラーに持ち込まずに済むため、ユーザーにとっての利便性も高まります。
ギガキャストで変わる製造の常識
「ギガキャスト」と呼ばれる大型一体鋳造技術は、複数の車体部品を一体成形で作ることで、部品点数を大幅に削減する生産手法です。ホンダと日産は、この技術と基盤ソフトの共通化を組み合わせることで、車両設計の自由度を高めつつ、生産効率を大きく向上させようとしています。
製造工程の簡素化だけでなく、軽量化やコスト削減といった効果も期待されるため、両社の協業における大きな柱の一つになっているといえるでしょう。
SDVが変える自動車ビジネス|“売り切り型”から“継続課金型”へ進化する仕組みとは?
クルマの売り方が変わる時代へ
これまで、自動車は「完成品を売って終わり」というスタイルが主流でした。ところが、ホンダと日産が進めるSDV(ソフトウェア定義車両)の登場によって、クルマの価値は“買った後”にも進化し続けることが可能になります。
この変化に伴い、車載ソフトのアップデートによって新機能を追加するような「継続課金型」のビジネスモデルが、今後は重要な選択肢になると考えられています。
データが価値を生む時代に
SDVでは、自動運転の高度化や快適な車内空間づくりのために、膨大な走行データや利用状況の情報が必要になります。こうしたデータは、その量と質が競争力に直結するほど重要です。
しかし、他社が開発したソフトを使っていると、そのデータを自由に活用できない可能性もあります。そこで、ホンダと日産は「自分たちでソフトをつくる」ことで、データの主導権を手放さないという姿勢を明確にしています。
先行企業から見えるヒント
SDVの分野では、すでに海外企業が先行しており、米テスラではソフトの更新だけで全体のリコールのうち約4割を解決しているとされます。こうした運用が可能になれば、ユーザーの満足度だけでなく、企業側の対応スピードやコスト効率も大きく向上します。
中国のテック企業もソフト主導の開発で存在感を高めており、ホンダと日産としても、グローバル競争の中で遅れを取らないための体制整備が急務となっています。
両社が描く今後の展開
ホンダと日産は、まず2026年にそれぞれ独自開発した車載OSを搭載した車を市場に投入する計画です。その後、2020年代後半には共同開発による新しい基盤ソフトを採用した次世代車を発売する方針です。
経営統合の再協議には進まずとも、今後はSDVという共通のテーマを軸に、連携を深めながら着実に成果を積み上げていく構えです。
免責事項
※本記事は、公開時点の情報に基づき作成しています。
技術動向や事業方針は変更される可能性があるため、実際の導入状況や詳細は各社の公式発表をご確認ください。
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